☆の備忘録

完全耳コピ

薔薇と白鳥 マーロウセリフ②

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あっという間に読破しやがった。すごいスピードだ。
まぁ読破と言っても、俺が書いたのはタンバレインの一部と二部、フォースタス博士、マルタ島ユダヤ人の4本だけだがな。
うるさい、俺だっていろいろ忙しいんだよ。
もういい勘弁してくれ。
あぁ役者の方ね。見てないけど、どうなんだ?
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それがそうでもないみたいだ。
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あぁ、書かせてるって言うのは正確じゃないが、一応。
どの役?まさかヘンリー6世?
トールボットってあのトールボットか?
ちょっと待て、その2人は同時代に生きてない。
泣ける、って台本読んでないんだろ?
弟子?


あぁ、今まで見たことがない。
言ったろ?今まで芝居を書いたことのない新人役者。
あいつは俺に嘘は言ってないと思う。
だが本当のことも言ってない、そんな気がする。
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とりあえず演目はわかった。ヘンリー6世だ。
おもしろくないと思う。
今まで芝居を書いたことのない新人。
あぁ一本も。
さぁ。
他ね、あ、ネッドがトールボットをやるそうだ。
だろ?そう言うリアクションだよねー普通。


トールボットの株が上がる。
ウィルの野郎、何も知らないフリしてそこまで?
本人によれば大学は出てない、自称田舎者の貧乏人。
さぁ。
聞いたよ。だけどあいつすっとぼけやがって、ツテのツテのそのまたツテを頼って…
もう一回聞き出してみる。
どこに行けばいい?
今夜どこにいるかなんてわかんないよ。
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なんだこの原稿。
これをあいつが書いたって言うのか。
すまん、勝手に見せてもらった。
これじゃ実質トールボットが主役だ、最初からそのつもりだったな。
苦肉の策だと?
その最期のトールボットと息子の会話、誰かに書き方を教えてもらったのか?
やっぱりな、誰に教えてもらった?
教えた覚えはない。
盗んだだと?
だけ?


よく読み込んでるじゃないか。
言ってみろ。
だがそれを目当てに来る客も多いぞ。
ほぉ。

あんたら、、、誰?
いや、包帯で顔がよく見えないから。
あぁ、お前らか。

みたいだねぇ。
聞きにも来なかったくせに。

おい、ウィル、お前は引っ込んでろ。
誰に聞いたんだ?
だろうと思った。

考えろ、腕を怪我してセリフが書けるか?
ちょっと待て、落ち着けって。金は工面できたんだ。そのナイフを下ろせ。
あぁ、20ポンド。
今はないんだ、今夜手に入る。今度こそ本当だ。
逃げんのか?
お利口さんなこった。
こら、むやみに煽るんじゃない。
もう十分修羅場だろ。
つまらん韻を踏むな、それでも詩人の端くれだろ。
逃げてる最中に考えるな。
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ふざけたことを言うな。お前なんか弟子にした覚えはない。
足元がおぼつかないのは酒のせいじゃない。そいつのせいだ。俺をロンドン中走らせやがった。おかげで飲む前から足元はフラフラだった。誓ってもいい。
なぜ飲む?それもそいつに聞け。
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嫌な夢を見た。フライザーが出てきた。
ヤツがこの部屋に現れ、あの底知れない無気味な目で俺を追い詰め、握りしめたナイフでこの胸をグサリと…
やけにリアルな夢だった。

ん?俺なんでここに。あれ?昨夜は…

あいつが?
いい子?あいつが?
(酔っ払って喚き散らす高慢ちきな詩人を介抱してくれる人が他にいる?)
いないさそりゃぁ、あんな奴見たことがない、得体が知れないんだ。
たしかに愛想はいいし人当たりもいい、だがどこか太々しいというか。うまく隠してはいるが心の中に根深い何かを隠しているような…
それに、あんな悲しいヒーローは見たことがない。
あいつじゃない、あいつが書いたトールボットだ。

トールボットは祖国のため、そして自らの誇りのためどんな苦難にあってもフランス軍に抗おうと分勢する。だが圧倒的に軍勢が足りない。ところがだ、祖国イングランドではヨーク家とランカスター家がつまらんいがみ合いをしているもんだから援軍が出せない。
それでもトールボットはひたすら果敢に戦う。そこに息子が加勢に来る。死を覚悟したトールボットは息子に逃げろと言う。お前に将来を託したいのだと。でも息子は父が戦うなら自分も逃げも隠れもしないといい結局、親子ともに戦死する。

あいつのでっち上げだ、ふつうならそんなお涙頂戴は反吐が出ただろうし、第一、ストレインジ卿の先祖へのヨイショにすぎないと一蹴しただろう。
でも俺はあいつのセリフを読んじまった。
あいつの言葉に引き込まれた。そこには言葉以上の何かがあった。
俺ともあろうものがトールボットの生き様に心動かされた。
そこで気がついた。これをネッドが演じたら間違いなく奴の新境地になる。
これまで俺の芝居で作り上げてきた荒ぶるヒーローとは全く違う新たな切り口で、ネッドの芝居は見るものの心をわしづかみにするだろう。

まさか。
慕ってる?あいつが?
人に慕われたことがないから実感が湧かない。
だがやつは俺にとって新人でも後輩でも、ましてや弟子でも何でもない。
ライバルだ!
だから俺は書かなきゃいけない、どう背伸びしようが、真似も、盗みもできない芝居をな!

これは?
20ポンドだ。これはジョーンが預かっといてくれ。そのうち奴等が取りにくる。

笑わせてくれるぜ。
新作を書けだと。しかも中身は指定済み、タイトルまで決まってるときたもんだ。
あぁ、今の俺なら書くだろうと値踏みしやがったんだ。ちくしょうめ!

パリの虐殺

どう思う?
こんなんがいいのか?
去年のアンリ三世の暗殺以来、フランスとの関係は危うい、こんな芝居が宮廷式典局長の検閲を通ると思うか?
いくら30年前とはいえ実話だ、カトリックの権力者たちがプロテスタントを次々と皆殺しにしていくんだぞ?

そこなんだよ!
つまりは、宮廷のお偉方の片棒を担ぐだけの芝居になるってことになるじゃないか。そんなの我慢できるか?

あぁ、それを俺に言わせんのか。


お前、こんな芝居に金を出すのか?
俺らしくない?なぁヘンズロウ教えてくれ、俺らしさってなんだ?
なんだって?

あーあーわかったよ。この金の亡者め。

書いてやるよ!とびっきり俺らしく残酷な話を書いてやる!目を覆わんばかりのひどい場面ばかり書きなぐってやる。検閲なんて知ったことか、あとで吠え面かいてもしらんぞ。目に物を見せてやるからそう思え。
後悔させてやる!
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趣味が悪いぞフライザー、待ち伏せかよ。
パリの虐殺なら急ぎで書く、急かすな。
いま虫の居所が悪い、要件があるならさっさと済ませてくれ。